蒼夏の螺旋

   “台風よりも…”
 


10月に、しかも間をおかず ほぼ同じルートで
大きな台風が連続して列島を急襲したのは10年振りだそうで。
早々と天気図上に顔を出し、
来るぞ来るぞとの思わせ振りをさんざんしておきながら。
間近まで来た途端、急に足踏みになってしまい
近づかないままに焦らしまくりな格好になったのは
実は偏西風になかなか乗れなかったからだそうだけれど。
そんな専門的なことなぞ、一般の素人には判るはずもなく、

 「だあもう、来るなら来いっ。踏ん切りの悪い奴めっ

この連休はというと、
久し振りに販売促進イベントの現場に出にゃならんとかで、
結構お忙しいご亭主で。
なので、ルフィ奥さんとしては

 体が空いたな、どうしよか。
 買い物に出ようか、それともちょっと遠出して
 食い放題イベントへ突撃を敢行しよか…なんて思っていたのに

 「結局、目当てのトコへは
  いっこも出掛けられなかったじゃないかよっ

先の台風の残したものが、
余りに鮮やか、余りにもまだ記憶に新しいものだからか、
JRが航空機の欠航よろしく止まるかもしれないとか、
そうともなりゃあ、それでしか足を運べないアトラクションパークは、
お客様の帰りの便を確保できないのはいただけないからと、
やはり早めに閉館するかも。
実際の話、プロ野球のドームの試合が、
雨も風も関係なかろうに中止になったくらいだし、
関西のほうで連休だからと開催されてた屋外型の博覧会やイベントは
片っ端から中止になったとも聞くし。
朝も早よから起き出して、
自分が受け持つ販促イベントへと出掛けていったご亭主を見送り、
こちらは客として、自分が出掛ける時間まで、
支度をしつつ、リンゴじゃ梨じゃを齧りつつ、
近づく台風の情報をテレビで観ていた奥方だったが。
覚えのある方面ゆきの 交通機関の雲行きが何だか怪しかったり、
降水量が記録的でなんて、わざわざ中継されてるトコだったりし。
まさかまさかと PCで案内サイトを覗いてみれば、
台風接近のため開催順延…のオンパレードと来たもんで。

 「こっちはまだ、雨も大して降ってなかったのにぃ〜っ

中継が出ていたという駅前だって、
映った時だけ ひどい降りだっただけ。
結局、昼を回っても、風こそ強かったがさほどに降りはしなかった。
とはいえ、
お客様の心証こそ一番大事とするのが眞のエンターテイメント。
イベント自体は楽しくとも、
帰り道でぐったり疲れてしまっては何にもならぬ。
皆様そろってそれを考慮したものか、
まだまだ全然無事だというに、
奥方が目をつけてたイベントばかりが軒並み順延と来たもので。

 “遠足はお家へ帰りつくまでが遠足ですってか?”

ルフィさん、それはちょっと喩えが違うぞ。(う〜ん)
いきなり予定があちこちで破綻してしまい、
しょうがないなぁと諦めて、
お馴染みのショッピングマートやイベントパークやへ運べば
そっちはそっちで連休ならではの混雑ぶりで。
此処に来れば必ず買ってるチョリソもピタも、
そのパークの看板のホットドッグもプレッツェルも、
とんでもないほど行列が出来てて、

 “そういや、普段は平日に来てたもんなぁ。”

なので勝手が違い過ぎ、
伸び伸び飛び回って楽しむというの、少しも堪能出来なんだのが
これまたご不満なルフィさん。

 「…あ〜あ。」

陽が暮れてからは ここいらもさすがに、
やっとこ台風ご本尊の影響がお目見えか、
時々 雨脚も強まって、風の唸りも聞こえるし。
ベランダから見下ろした街路樹は、
よくもそこまでと思うほど、梢をくねらせて暴れてる。
一応の用心にと雨戸を閉めて、
リビングのソファーへ ばふっとダイビングしたものの、

 “ゾロも遅いんだろうしな…。”

キャンペーンのためのイベント、現場であれこれ仕切るときは、
打ち上げまで付き合うのが基本の係長さん。
いやいや それは構いませんとも、
そうやって士気やテンションを上げるのも大事だし、
それでなくとも、毎日毎日伝書鳩みたいに真っ直ぐ帰宅するお兄さんだ。
同居している従弟の坊やが寂しがらないかと思ってのことと、
職場の皆さんからの理解は得ているらしかったれど、
こんな日くらいは大いに飲んで来た方がいい。
ただ、選りに選ってこんな日だってのに、
その締めくくりを 一人で過ごさにゃならぬというのが、
何ともむっかり来るじゃあありませんか…となるのも、
まま、致し方なしというもので。

 “なぁんか、何か作る気も起きないしなぁ。”

サミさんのコンビニで、お弁当買ってこよっかな。
ピザや中華のデリバリでもいいけど、ああでも今日は混んでるかもだな。
それにそういうのって何か味気無いよなぁと、
関係者の皆様へ大きに失敬なことを思いつつ、
一人じゃ広いソファーの上に寝転がり、
ご亭主がいつも枕にしているクッションを胸元へ抱え込むと、
む〜んと不貞腐れかかっていたのだが、

  ぴぃんぽ〜ん、と

何の構えもないところへの、
唐突なドアチャイムの響きは、結構ドッキリ来るもので。
ひゃっと、横になってた総身を器用にも全部浮かせるほど、
文字通り飛び上がって驚いたルフィさん。
こんな時間帯にセールスマンもないだろうにと、
何だ何だとそれでも身を起こし、
1階のエントランスホールから通じてる格好の、
インターフォンパネルまでを ぺたぺたと裸足のまんまで歩み寄る。

 「…はい。」

小さなモニター画面に相手が映るが、
一切関心もないまま、ぶっきらぼうな応じをすれば、

 【 おー、ルフィ。
   開けてくれっか? 鍵、出すのが面倒臭い。】

 「あ?」

昼間は動いてた路線も何本か、
遅延してたり様子見でか止まってたりという影響が
さすがにあちこちで出ていたらしく。

 「いやもう、同じルートがあちこち行き止まりになっててよ。」

駅の中は中で タイルが濡れてて滑る滑るで、
そういうのへも時間取られて遅くなった、と。
時計を見やれば、いつもと変わらぬ時間であり、
そんな困難飛び越えて、ちゃんと帰って来ているご亭主殿なのが、
今日はさすがに意外や意外で。
破天荒な奥方が珍しくもキョトンとしている側だったりし。

 「…ぞろ。
  俺、雷とか大風とか怖くなんかないぞ?」

 「判ってるよ。」

怖がらないどころが、
稲妻がピカリと光れば、
血が沸き 肉が躍ると大騒ぎしちゃうもの重々承知。

 「そんでもな。
  今度のは威力の強い台風らしいから、
  ついつい気もそぞろになるわ、
  帰れば帰るで、日頃以上に艱難だらけだったから
  それで遅くならないよう、ついつい駆け足になってたって訳だ。」

駅からマンションまでの道も、
まどろっこしいと傘も差さずに走って来たか、
スーツも頭も靴までも びしょ濡れで。

 「…か、過保護なんだよな、ゾロはよ。////////」

 くどいようだけど、俺、ホントにこういう天気は怖くないし、
 第一、今日は何にもご飯の支度してねぇぞ。

 そかー、じゃあしょうがないから出前でも取るか?
 それとも、俺が久々に 焼きめしとか作ろっか?

 「あ、それいいっ!」

でもその前に風呂へ行けと、
一番大きいバスタオルでぐるぐる巻きにしてやった、
いろいろ自慢の 大きなのっぽのご亭主を、
ほらほらと ぐいぐい押して風呂場まで追い立てる奥方で。

 「湯気が出るまで出てくんな。」

辿り着いた脱衣場では、
自分は戸口に立ち止まると、腰に手を当て、胸を張り、
むんと大威張りで言い放った彼だったのへ、

 「それ、俺が言ってる台詞だぞ。」

 「いいじゃんか、たまには。////////」

カラスの行水なのへ、こらこらと引き留めちゃあ、
頭から湯気が出るまで温ったまれと、言い聞かせてるのを、
本人へ言ったってなぁと苦笑され。
説教なんて慣れてないんだもん、大目に見ろよと、
妙な理屈を言い置いてから、キッチンへと戻ってく。

 “急に帰ってくんだもんな、ビックリすんじゃんか。//////”

ゾロの焼き飯か、久々だよな。
ご飯は炊いてあっから、材料を見繕っといて。
ああそうだ、ビール冷えてたかな?
いやいや熱燗の方が良いかもな、なぞと、
チッしょうがないと言ってる割に、
お顔は嬉しくってたまらないという笑顔にしかならなくて。

 ああ不思議だな。
 二人になると、平気が平気じゃなかった気がする。
 ホントに平気で、何も怖くなんかなかったのにサ。
 心細いとか思わなかったのにサ。

 「♪♪♪♪〜♪♪」

今にもスキップさえ踏みかねない浮かれよう。
とりあえずはハミングしながらキッチンへ向かった小さな奥方、
それは幸せそうなのが、どんな朴念仁にも通じよう様子でしたが。

 “まさかに、冠水した通りや増水した川を見に行こうとか、
  そういう手の問題行動までは起こさないだろうが。”

うあ、今ものすごく光ったぞ凄い凄いと興奮し、
んきぃ〜っと盛り上がった挙句に、血の気の捌け口に困らぬか、
そちらも実はあまり客の入りが盛り上がらなかったイベントの間じゅう、
そんなこんなを案じてしまったらしいご亭主様。
台風情報でも確認してか、
スマホを覗き込んでた十代くらいの娘さんが目に入り、

 日頃はやや忘れてるような知己へまで、
 暇に飽かせてのこと
 ワクワクっぷり満載のメールの濫送とかやらかさないか、と

そんな疑念がムクムクと沸き起こり、急いで駆け戻ったなんてこと。
それこそ バレちゃあいかんとばかり、
熱めのシャワーをザッとかぶって、
切り替えだ切り替えと念じ始めた
結構可愛い旦那様だったようでございます。





     〜Fine〜  14.10.14.


  *二週連続で台風一過のお話です。芸がなくてすいません。
   洒落にならない怪我をしたり被害に遭われた方もおありでしょう、
   なのに、ふざけた代物を書いてすみません。
   あと、関東地方が本格的に荒れたのは
   3連休最終日の宵からだったそうですね。
   ついつい関西地方の目線で書いちゃいました、すいません。

  *この興奮を、でも誰とも分かち合えないというのは、
   結構 悶々とするんじゃないかと思います。
    ex,スマホゲームとかで思わぬ神業が出たとか、
     一人での帰り道、空を見やれば大きな虹が架かってたとか。

   もしかしてゾロさんも、寡黙で淡々として見えて、
   そういう経験が結構あったので、
   自分以上に感受性の豊かなルフィさん、
   そわそわしまくった末にメール打って気晴らししてないか、
   そんなのが あのややこしいお母様の目に触れたらと
   思ったのかもですね。(笑)
   (破邪様の場合は、美魔女のお祖母様が鬼門かと。笑)


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